「もしも南野秀一が塾の同僚講師だったら・・・」





♪♪♪〜
密やかに携帯のメール着信の音が鳴る。は慌ててトイレに駆け込み、メールを見ると、案の定彼からの定時着信の待ち合わせ連絡だった。OKの返信メールをしてから、何ごともなかったかのように席に戻って、その後、そっと彼の方を盗み見た。



の彼は、同じ職場の人で、名を南野秀一という。職場恋愛御法度なのは、多分、ここが塾という年頃の子供達を預かる教育の場だから。ことに、進学率のトップをいつも大手と争うようなこの塾では、父兄の熱心さは半端ではなく、先生への注文も厳しかった。それなりの年齢の男女が働く職場だというのに、プライベートまで下手をすると管理されかねない状態なのも、そのせいである。実際、今まで何人かの同僚が、主に恋愛関係で品行不正だというのを理由に、父兄の糾弾にあって辞職させられている。



と秀一は、この塾では現在ピカ一の講師陣である。秀一をここの講師として迎えるか否かについては、かなり揉めたらしい、、、、、というのも、、。彼はとにかく、かっこよくて、見目麗しく、特に講習を受けている女子生徒達の集中力が落ちるかもしれないという危惧があったからだが、実際には、多分、この塾でも一番厳しい講師となり、ビシビシと生徒達をしごいて、塾の合格率アップに一番貢献することとなったのは、塾長にとって嬉しい誤算だったらしい。



は大学を出てすぐにここに就職したが、その人柄から生徒達にも慕われ、秀一とはまた違った手法で、生徒達をコントロールして、うまく勉強させていた。生徒達に一番年齢が近いというのもあってか、時には、彼等の悩みもきいてやるなど、プライベートな相談を持ちかけられることもしばしばあった。ことに、女生徒からの恋の悩み相談は、後を絶たない。それも大抵は、秀一への恋心の相談相手。彼女自身は、この塾の不文律としての職場恋愛禁止を知っていたので、そういう対象として、秀一を見たことはなかったので、非常に客観的に物事を判断し、うまく、女生徒達の情熱を勉強の方へと向けることが出来ていた。
少なくとも、少し前まで、、、。



きっかけはごくごく些細なこと。



塾が終って、それぞれの授業の後片付けをして出ようとしたのが、もうすでに午後10時を回っていた。いつも、だいたい最後まで残っているのは、秀一と。でも、塾長も二人の事は信用していて、別段やかましくいわれることもなかった。何しろ彼等が残っているのも、全てが、ここに来ている生徒達の成績の分析と、それに対する対策を練るためだというのがわかっていたし大抵は、塾長も最後までそれにつきあっていたから、二人の仕事の仕方なり、関係なりは把握されていた。だが、あの日は、たまたま塾長が用があって先に帰り、二人きりで残っていた。



先生、もう終る?」



そう声をかけられて、ふと顔をあげる



「あ、はい、この問題をあとは明日コピーすればいいだけですから。」
「そう、じゃあ、待ってるよ。」
「え?いいですよ。南野先生、お先にどうぞ。」
「そういうわけにもいかないでしょう。こんな遅くに女性1人、ここの戸締まりを任して、おれ1人帰るなんてね。」
「遅いのはいつもの事ですもの。いいですよ。」
「そう?じゃあ、悪いけど先に失礼するね。」
「はい、お疲れさまでした。」
「お疲れさま。」



そう言って、秀一は部屋から出ていった。



「ふぅ、、、。」



はタメイキをついて、仕事の片づけにとりかかる。何となく、秀一と二人きりというのが、気詰まりだったのだ。その日も、女生徒から秀一への熱い想いを打ち明けられて、相談にのってやったばかりだった。



(よくもまあ、次から次へと、、、)



半ば呆れながら、その生徒の思いの丈を聞くだけ聞いてやり、それからいつものように、ごくごく常識的な事をいって気持ちを落ち着けさせたのだが、生徒達の相談をきく都度、自分自身は秀一から興味がそがれていくのを感じていた。確かに、彼は頭もよくて、スマートで、ハンサムなのだが、あまりにも隙がなさすぎて、は人間味のようなものを感じなかった。
冗談をいう時ですら、何処か計算しているような、そんな彼の頭の回転の速さには舌をまくが、秀一の用心深さというか、自分自身の素の部分を見せないようにしている所を鋭く感じ取っていたのだった。だから、秀一と二人でいても、ときめきなど感じるどころか、何処か腹の探り合いをしているようなところがあってくつろげなかったのだ。



「どうしたの?タメイキなんてついて?」
「ひっ!(汗)」



ドサドサドサッッ!



ホッとしたところを、いきなり後ろから声をかけられて思わず手にしていたファイルを取り落としてしまった。



「み、南野先生!?脅かさないでください!」
「あ、ごめん、ごめん(苦笑)外に出たら、雨が降ってきてたから、傘を取りに戻ったんだけど先生は、傘、ある?」
「え、、雨ですか、、?、、うわぁ、、どうしよう、、置き傘、この前使ってから持ってきてないかも、、(汗)」
「けっこう、ひどい降りなんですよ。それで、もしかしたら、、と思ってね。(クス)」
「先生、2本お持ちなんですか?」
「いや、生憎、1本しか傘の持ち合わせはないんで、よかったら一緒にどうですか?」
「えー、、?」(どうしよう、、相合い傘、、?)
「この時間なら、別に誰に見咎められることもないだろうし、心配はないですよ?」
(うわ、、、考えてる事読まれたみたい、、(汗))「そ、そんな心配だなんて、、(汗)」
「じゃあ、決まりですね。帰りましょう。」
「は、はい、、。」



半ば強引に決められて、二人で塾を出た。なんだか、秀一が余裕綽々といった態度なのが、いまいち面白くなかったが、背に腹は変えられなかった。確かに、すごい土砂降りで、タクシーをつかまえたくとも、ちょっと路地裏に入った塾の前では普段でもなかなか掴まらないので、この申し出そのものは有難いものだったのだが、男性と二人で肩を寄せあうように傘の下に入って歩くのは、としてはちょっとした冒険だった。



(駅までの10分だけ、、だから、、)



そう自分に言い聞かせるものの、秀一とこんなふうに接近したこともなく、は緊張した。そのせいか無口になってしまい、かえって緊張感が強まるのを感じて、柄にもなくドキドキしてきてしまった。焦れば焦る程、とんでもないことを口走りそうで、下手な事は言えないし、、、。
そんな事を考えていた時に、急に彼女の脇に手が伸びてぐっと引き寄せられた。



「きゃっ!何をするんです?」「危ないっ!」



慌てて抗議しかけたのすぐ側を車が泥をはねあげて通り過ぎた。



「ごめん、、。おれが車の通る側を歩いていたつもりだったんだけど、いつの間にか道のまん中を歩いてたみたいだね。」
「あ、、、ありがとうございます(赤面)」(やだ、私ったら何を勘違い、、(汗))
「いや、それより服とか大丈夫だった?」
「え、、ええ、、これくらいなら大丈夫です。」
「そう、、。ならいいけど。そうだ!雨が少し小降りになるまで、駅前で何か食べませんか?」
「え?」
「いや、おれ、実はお腹がぺこぺこなんだ。先生も、御飯まだでしょう?」
「はい、、。でも、、、。」
「ほら、傘はどちらにせよ、1本しかないんだし、この分だと電車を降りてからも、まだきっと降ってるだろうから、少し時間とった方がいいと思うんです。先生とおれの降りる駅も違 うしね。それとも、家までこのまま送っていった方がいいかな?」
「い、いえ、、それは、、、、(汗)」
「じゃ、いきましょう!」
「あ、、、。」



有無を言わさず結局は遅い晩餐をつきあうことになっただが、秀一のペースにまんまとはめられている、と思いながらも、不思議と不快には思わなかった。連れていかれたのは、コジャレた小さなビストロ風のお店。こんな遅くだというのに、そこそこお客も入っていて、しかもとても静かで雰囲気のいいお店だった。キャンドルの灯ったテーブルで差し向いに座る。



「へ〜え、、駅前に、こんないいお店があったなんて、知りませんでした。」
「そうでしょう(笑)遅くまでやってるから、時々来てるんですよ。」
「おひとりで?」(ば、ばか、、私ったら、、、(焦))
「おかしいですか?」
「いえ、、、そんなことはないんですけど、、、。何だか申し訳ないような気がして、。」
「どうして?」
「こんな素敵な所なのに、お相手が私では、、て、、。」(あーん、言えば言う程墓穴(泣))
「そういわれてみれば、こんな時間だとカップルばかりですね(微笑)でも、他から見たら、おれ達もそういう風に見られてるかもしれませんよ。」
「えーーー!?そんな、それは困ります。」
「おれじゃ、役不足、、、かな?」
「そ、そうじゃなくて、、(汗)ほら、誰かに見られて塾で変な噂がたったら、南野先生もお困りになるでしょう?」
「ああ、、職場恋愛禁止っていう、ナンセンスな不文律のことですね(苦笑)」
「ナンセンスって、、、。」
「だって、今どき、そんな事をいって、私生活まで縛られるのなんておかしいでしょう?あ、、でも、先生に決まったお相手がいるのなら、おれなんかと、こうやってるのは迷惑なのか な、、。」
「そ、そんな人いませんっっ。」(何をムキになってるんだろ、、私(苦笑))
「まあ、確かに変な噂だけで、妙に勘繰られて、職を失うっていうのもイヤですけどね。でも、大丈夫ですよ。第一、こんな時間にここに来るような父兄がいたら、かえってその人の方が、 ヤバイんだと思いますよ。年齢的な層も違うし、時間が時間ですからね。知る人ぞ知る名店て とこですから、安心して下さい。」
「は、、はい、、、、、。」
先生こそ、いつも残業した後は、御飯とかどうしてるんですか?」
「家に帰って作る気力もないし、、コンビニでお弁当を買って帰ったりとか、、そんな感じですかね、、(恥)」
「それじゃあ、身体がもちませんよ。きちんとした食事をしないと。かえってここでサラダとかだけでも食べた方が、胃なんかへの負担は少ないし、ちゃんと栄養もあるし。けっこう、コン ビニの弁当って、カロリーも高いそうですから、夜中に食べたりするのには向いてないんじゃ ないかな?」
「だ、だって、、、、仕事で力つきてるんですもの、、、、。」
「て、先生は一人暮らしだったんですか?」
「あ、、、、はい、、。」
「じゃ、時々、食事をつきあって下さいよ。1人で食べるより、2人で食べる方が美味しく食べられますし。あ、別に他意はないですから、、。(ニコ)」
「え、、、、、、、でも、、、、、、、、。」
「ホントは前から誘いたかったんですけどね。」
「え?!」



そんな気になる事をさらっと言われて、思わず秀一の顔を正面からまともに見たは、自分を見る、彼の大きくてきれいな瞳にドギマギした。



(え、、南野先生って、、こんなに素敵だったっけ、、、、、、?)



いつも女生徒達から聞かされていた秀一の魅力というのが、改めて頭の中をよぎる。思わず、グラスワインを一気に飲んでしまって、咽せた。



ゴホゴホゴホッ、、。



「大丈夫ですか?(汗)ワインをガブ飲みすると、あとできますよ。」
「え、あーーー、、、(汗)」(カァーーーーッ、、。何やってるの、、私)
「お酒強かったんですね?」
「ち、ちがいますぅ、、(真っ赤)」



恥ずかしいのと、一気のみしたワインのせいで、ますます顔が赤くなる。そんなを見つめる秀一の目は優しかった。



「意外と、そそっかしいところもあるんですね(クス)」
「う、、、、。南野先生が変なことをおっしゃるからでしょう?」
「変な事って?」
「いえ、その、、あの、、前から誘いたかったとか、、何とか、、(しどろもどろ)」
「そうですよ?おかしいですか?(ニコ)おれは前から、先生ってどういう方なのか知りたいって思ってましたから。」
「どうしてですか?」
「だって、大学を出てうちの塾にきて、すぐにトップクラスの実績をあげるようになってそれをキープなんて、そうそうできることではないですからね。それに生徒からの信頼も厚いし、い ろんな相談とかも受けて実の姉のように慕われている。」
「そ、そんなことないです、、、。」
「いったい、どういう相談を受けていらっしゃるんですか?」
「え、、それは、、、、、、、、。」
「おれにも関係してたりしてね(笑)」
「ご、御存知だったんですか!?」
「まあ、だいたいの想像はつきますけどね。だけど、そんなに先生に、御迷惑かけてるんだとしたら、ますすますこれは、食事くらい、御馳走しないとね(微笑)是非におれの相談にも のってほしいし。」
「相談?」
「ええ、ある女性の事が気になって仕事も手につかないんですが、どうしたらいいかなって。」
「え、、、?」
「その人は、全然おれの事なんか目に入ってないみたいなんだけど、ようやく食事に誘えたのでそれからどうしたらいいでしょう?とかね(クスッ)」
「え?え?、、、それって、、、(汗)、、からかわないで下さい、、(赤面)」
「誰も、貴女の事だなんて言ってませんよ(笑)」
「(真っ赤)、、、、南野先生って、、案外お人が悪いんですね、、、、。」
「そんな人聞きの悪い。心外だな、、(苦笑)」
「あ、、ごめんなさい、、、、つい、、。」



そう言って、は真っ赤なまま俯いてしまった。そんな彼女を見ている秀一の口元にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。



「でも、当たってますけどね(ニコッ)」
「!」(え?ど、ど、どういうこと??)
「ほんとに、素直に反応する人ですね。つい、からかいたくなる(笑)」
「あ、、ひど〜い、、。それって、私が単純だってことですか?」
「あははっ。」



すっかり秀一のペースにのせられた。だが、彼の素顔を見れた気がしてそのまま結局朝まで、いろんなことをお互いに語り合った。それまで知らなかったし、わかろうともしなかった秀一の事を知って、は見かけ以上の彼の魅力に惹かれたが、秀一もまた、抱いていた興味がそれ以上のものとなった夜となった。



それからほどなくして、いつの間にか残業の後、二人でこっそりと食事に行く回数が増え、自然とつきあうようになった。もちろん塾ではそんな素振りを見せるわけにもいかず、相変わらずモテる秀一への女生徒からの相談も後を絶たない。しかし、二人は自分達の仕事の質を決して落とさないように頑張っていた。というのも、、、。



口に出して約束したわけではないものの、いずれは二人は一緒になろうと考えはじめていたのだが、この塾で普通に職場結婚するわけにもいかないし、もし、それが出来たとしても、どちらか片方は辞めなければならないだろうことは目に見えている。だが、二人ともが、この仕事を好きで続けたいという熱意があった。そこで、塾長にも父兄にも文句を言われないだけの実績を重ねようと、それまで以上に仕事に打ち込んでいたのだ。そして今日は、模試の結果が出る日。このデータを最終データとして、生徒達の志望校決定をする為、非常に重要なものだった。



その夜−−−−−−−−。



「どうだった?君の受け持ちの生徒は?」
「うん、かなりランク上がってた!志望校も大半がA級に変更できそうよ。」
「そうか、よかったね。おれのところも、似たような感じだ。」
「これで、また、少しは評価が上がるかしら?」
「そうじゃないと、困るけどね。おれはともかくとして、少なくともの頑張りは評価されるべきだよ。」
「え?何言ってるの。秀一こそ、もっともっと評価されていいと思うわ。」
「いや、おれはいいんだ。」
「どうして?」
「実は、話があるんだ。」
「、、、、なに?、、、、、」
「おれ、ここを辞めようかと思って、、。」
「ええっ!?どういうこと?」
「蔵馬予備校から、来ないかって言われてるんだ。」
「そ、それって、、。」
「そう、引き抜きってやつ。」
「そんな、、、、、あなた、大手は嫌だっていってたじゃないっ!」
「うん、そうだったんだけどね、、。条件がすごくいいんだ。」
「いやよ、私は。二人で頑張ろうっていったのに、、、なのに、、、、。そんなの、、(涙)」
「いい?よくおれの言う事を聞いてほしいんだ。」
「、、、、、、、、、、、。」
「おれも、今の塾は好きだし、の側で働くのは楽しい。それは変わらない。でもね、今のままじゃ、おれと君はいつまでたっても、コソコソとつきあってかなきゃならない。」
「だから、誰にも後ろ指をさされないように、こんなに頑張ってきたんじゃない、、。」
「それはそうだよ。だけど、と普通に会いたいんだ。こんなふうに、どちらかの家でしか、休みの日も過ごせない、とかじゃあなくて、君といろんなものを見て楽しんで分かち合いたいし、もっと堂々としていたんだ。が、おれのことで、生徒から色々相談されて、苦しんでるのを知らないとでも思ってるの?」
「あ、、、。」
「それにね、、条件がいいのも、今のおれにとっては大切なことだと思えるんだ。」
「自分の生徒達は、どうするの?」
「それは彼等の判断に任せるさ。それに、蔵馬予備校は、今来ている生徒達が、次の進路に進む時がメインのターゲットだしね。君もいることだし、きっと、おれが辞めても、彼等はそのまま残って、ちゃんと実績を作ってくれると思うよ。」
「だけど、だけど、あなたが違う所にいってしまったら、私とはいわば、商売敵になってしまうわ。それこそ、私達がつきあってることがわかって、情報漏洩だとか何とか、痛くもない腹を探られたりしたらどうするの?」
「それも考えたさ。だけど、君と一緒にこれから先もずっといる為には、こっちの方がいいってそう思ったんだ。将来は、二人で独立して塾を開いてもいいじゃないか?」
「え、、?」



「おれと結婚してほしい。」



「秀一、、、!(赤面)」
「もちろん、今すぐに、とはいわない。でも、おれは君と一緒になって、二人で塾を開く為に、大手のやり方も知るべきだと思った。だから、この話にのろうと思うんだ。だめかな、、?」
「そんな、、、、、、、、。」
「返事は待つよ。だけど、二人でなら、きっとうまく仕事だってやれると思うし、何よりとずっと一緒にいられるようになる事の為に、おれを行かせてくれないかな?」
「、、、、、、、、(涙)」
「どうしても、君が嫌だというのなら、、もう一度考えるつもりではいるけど、、。まだ返事はしてないから。」
「、、、あなたって、、やっぱり、、人が悪いわ、、、、、、(涙)」
「ん?どうして?」
「いつも、そうやって、、私をからかって困るのを見て喜んでるし、、、。」
「そんなことないよ。君はおれにとって、何よりも大切な存在だよ、、。」
「ほら、、そんな事を、さらっと言ってのけてしまう、、。」
「おれは真剣だよ。」



そういうと秀一はの顔を両手で優しく挟んで、自分の方に向かせた。真面目な顔をして、涙がまだ浮かんでいるの顔をじっと見ているうちに、彼の顔は自然に綻んでくる。その笑顔を見ているうちに、の顔にも恥ずかしげな笑みが戻った。



を困らせるつもりはないから、、ね。」
「うん、、、、わかってる、、。」



その言葉を聞いて安心したように、秀一はそのまま、に唇を重ねた。静かだが気持ちのこもった口づけの後、は秀一に抱き締められたまま、彼が二人の将来についての考えを話すのをずっと聞いていたのだった。そして、あの雨の夜のことを思い出して微笑した。



(あの日、私が傘を持っていたら、きっとこんなふうにはならなかったんだろうな、、、、。)



そんなに気づいたのか、秀一が話をふっとやめて不思議そうな顔をする。



「どうしたの?」
「ううん、何でもない、、(微笑)」



この人とならきっと、幸せになれる、、。は、なぜかわからないが、そう確信しながら、秀一にとびっきりの笑顔を向けた。



「さっきの返事なんだけどね、、。」
「えっ?」
「私には滑り止めも何もなくて、ただ、第一志望しかないんですけど、南野先生についていきます。だからこれからもずっと、どうぞ御指導の程、よろしくお願い致しますね(笑)」
「わかりました。大船にのった気で、おれに任せて下さい(笑)」



少しおどけて噴き出した二人の間には、幸せな時間が流れていた、、、。



数カ月後、秀一は蔵馬予備校に遷り、は塾の進路顧問となり、父兄や塾長、そして生徒達からのますます厚い信望を得た。街に南野進学塾の看板が出たのは、それからもっと先の話となるが、小さくてアットホームな雰囲気と合格率の高さとその進学先のすごさに生徒が殺到した。
看板講師の南野秀一の傍らには、もう1人の看板講師、南野の姿がいつもあったという。




The End
















さあなさんのファンの方、申し訳ありませんが、この蔵馬氏は私のです!(笑)
…唐突に宣言してみました。



リク交換のお誘いを受けてから、かなり悩んで私がお願いした内容は
「蔵馬は先生で!そしてヒロインは生徒ではなく同僚!」。
しかしあまりにもベタだったため若干の修正案を追加させていただきυ
最終的に「塾講師」になりました。
塾の先生!かっこいいじゃないですか!
教えるのはビジネス!でも指導に熱意あるスパルタ!はぎゃー!



人の悪い秀一さんは非っ常〜……に私のツボです。
遠まわしだけど時にストレート、優しいけど時に強引。
もう本当、勘弁して下さい!!!
あなたこれ以上私のツボをややこしくする気ですか!?(泣)



ところどころヒロインが私の性格に近くて、読んでて涙出るほどどきどきしました。
こっ……こんな塾講いたらなぁ!!
例え地方でも遠征して通うよ私は。ドリーム万歳――!!
でも実際蔵馬が勉強教えてくれるとしたらペナルティありの授業なんてやりそう。
ぜぇ……ぜぇ…。



さあなさん、本当にありがとうございました!!
03/6/13  詠実














































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