青い空に、白い雲が混じる晴れの昼間。
平日のこの時間帯に、街に見える人の姿はまばらで。 静けさが街に満ちる中、そんな街の真ん中にあるこの皿屋敷中学は唯一賑やか。 それもそのはずで、今は昼の休み時間。 昼食を食べたり、校庭で遊んだり。 生徒達が、有意義に時間を過ごしている。 そんないつもの風景の中、屋上に立つ二つの人影が見えた。 「ふ〜、やっと抜け出せたぜ・・・」 「螢子ちゃん怒ってんじゃねーの?」 「知るかよ、毎日毎日煩くてしょーがねーぜ。 しかも最近は飛影と徒党を組みやがって・・・」 最近の昼休みは、幽助にとって気が休まる時間ではない。 蔵馬作成のミニテストを、有無を言わさずやらされるのだ。 今日は何とか逃げ切った幽助は見るからに面白くない表情で、屋上のフェンスに体重を預ける。 その口にくわえられたタバコからは、白い煙が一筋。 静かに空へと立ち昇る。 「やっぱここが一番落ち着くな」 真っ青な空に揺れる煙が、何とも言えない感覚を味あわせてくれて。 屋上から空へとどこまでも続くこの解放感は、この場所を知っている者だけの特権。 「ん?おい浦飯、お前銘柄変えたか?」 「ああ、よくわかったな。 やめられねーんならせめてニコチン少ない奴にしろって、一番軽い奴押し付けられたんだよ。 おかげで物足りなくて・・・」 「その割には大人しく押し付けられた奴愛用してるじゃねーか。 螢子ちゃんとの愛の力って奴か?」 「ブッ!! 何でそうなるんだよ!!」 「照れるなって、いや〜羨ましいな〜浦飯。 俺もいつか雪菜さんと・・・」 「勘違いするなっての!! 蔵馬だよくーらーま!!」 「何でえ、つまんねーの」 「何でわざわざお前にサービスしなきゃなんねーんだよ」 チッと軽く舌打ちしながら、短くなったタバコをフェンスの縁で押し消す。 足元にはいつの間にか、数本の吸殻が溜まってた。 「ところで桑原、お前高校受験考えてるんだろ? お前こそ勉強しなくていーのかよ」 「ちゃんとやってるっての、今は息抜き。 やばいのはお前だろ、大丈夫なのか?」 「へーきへーき」 その自信はどこから来るんだか。 呆れた表情を見せた後で、二人揃って高い空を見上げた。 時折視界に鳥の影が映る。 幽助は胸ポケットから、新しいタバコを一本取り出した。 フェンスに体重を預けながら、皿屋敷の街並みを見下ろす。 「あのマンションが俺の家だな。 ・・・屋根の上とか移動していいなら、もっと寝坊できるんだけどなあ」 「死んでもやるなよ」 「わぁってる」 「俺の家があそこで、螢子ちゃんの家があっちか」 「俺の家と学校の真ん中らへんに高い木が見えるだろ? あれが、飛影の一番の昼寝スポットなんだよな。 見つからなかったら大体あそこにいるから、思いっきり揺らしてみろよ。 カブトムシみてーに落ちてくるぜ」 「そうだろうな」 どちらともなく笑みが零れる。 幽助はまだ火をつけたばかりのタバコを押し潰し、足元に捨てた。 吸殻の溜りがまたひとつ増える。 「やっぱり、ここはいいなあ・・・」 「何か、こうやって高い場所から空を見るとさ。 すっげえ気持ち良いんだよな。 街をこうやって見下ろすのもさ」 「だったらお前、屋上よりもっといい方法があるぜ」 「ん、何だ?」 「浮幽霊になって漂う」 「遠慮しとく」 「遠慮すんなって、経験者のお勧めだ。 何かを伝えたくても気付いてもらえなかったり、大事な時に何も出来なかったりしたのは嫌だったけどさ。 時間限定なら、あれはあれでいいもんだったぜ」 「さすが経験者の言葉、生々しい・・・」 「はは」 心地よい風が二人の間を通り抜ける。 風に揺られる服の裾、髪。 静かに目を閉じて、風の感覚とわずかな音を楽しんでいた。 すると不意に、その静けさを破る無粋な機械音。 「あ、昼休み終わりか」 「そういえば、いつの間にか校庭に人いなくなったな」 昼休みが終わった、それはすなわち午後の授業の始まり。 人事のようにのんびりしている場合ではないのだが・・・。 「な〜んか授業出る気分じゃねーや。 今日はふけよ」 「お前なあ・・・まあ、たまにはいいか」 「お、不良〜〜」 「元々じゃねーか、俺は正義の不良だぜ」 「それ矛盾してっぞ」 あはは・・・と、心底楽しげな笑い声が静けさの中響く。 休み時間の解放された空気が消え、学校全体が静まり返った。 かすかに聞こえてくるのは先生の講義の声、そして生徒達の書き取りの音。 それらの音を聞きながら、屋上で静かな時を過ごす。 知る事ができる者のみが知る、この解放区で。 「授業中っていうのがまた気持ち良いぜ。 静かでよ、ここでこうしているのが俺達だけだっていうのもな」 「霧島にでもノート借りるか。 お前、後で螢子ちゃんにはったおされるんじゃねーの?」 「けっ、この霊界探偵浦飯幽助さまにかかっちゃ、そんなの楽勝楽勝」 「蔵馬でも呼ばれたらどうするんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「考えてなかったか」 サ〜〜っと顔色を青くする幽助に、桑原が肩を竦めた。 まあ、自業自得なわけだし。 桑原の想像通り、授業終了と同時に怒り心頭でやってきた螢子と飛影にはったおされることになる幽助。 まあ、これもいつものことである。 何も知らぬと言いたいかのように、屋上のこの場所には変わらぬ風が吹いていた。 |
このサイトのカウンタ一万記念に、comicさんからいただきました。 なんと、イラスト置き場にある幽助と桑ちゃんが屋上でダベっている絵のお話を考えて下さったのですよ!!!そしてそれをプレゼントして下さったのですよ!!同人者としてこんなに嬉しいことはありません。私の希望も叶えて下さって嬉しすぎます(笑)誰もいない学校の屋上ってどうしてあんなに爽快なんでしょう。こういう雰囲気好き〜〜本当好き〜〜カブトムシ取りに行きたい〜〜。 それにしても幽助はきっついの吸ってそうですよね。 comicさんの幽白小説がとても好きです。霊界や魔界のゴタゴタに巻き込まれたのが嘘のように、普通の学校生活を送る幽助たち。優しい空気、何気ない日常にじわっときます。 comicさん、本当にありがとうございました!! |
03/9/3 詠実 |